吉田修一『元職員』読了

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こんにちは!ひろさんかくです。

ここのところ、読書のペースが遅い。年間で見る映画と読む本のターゲット数をそれぞれ設定しているが、読み始めても途中でやめてしまうか、積読が増えるだけ。そんな中、最近始めた【オンライン読書会】で紹介して頂き、1時間ちょっとで読める『元職員』吉田修一作をあっさりと読了した。166ページの作品。

一気読みしたからと言って面白い!と紹介するとは限らないが、あれこれ考えさせられる作品だ。

吉田修一『元職員』読了

概況

作家、吉田修一は、1997年『パレード』でデビューし、2002年『パークライフ』で芥川賞受賞。『悪人』『怒り』など、映画化作品も多い。この作品『元職員』は2008年講談社創業100周年を記念した書き下ろし。

あらすじ

2001年に発覚した青森県住宅供給公社での巨額横領事件をモデルにしているらしい。アニータというチリ人妻が時の人に。脱線するが、『怒り』もイギリス人英会話学校教師であるリンゼイ・ホーカーさん殺人事件の犯人市橋達也が整形を繰り返しながら逃亡した事件を元にしている。

事実は小説よりも奇なりということで、実在の事件を元にした作品が多いのか?

ただ、小説(もしくはミステリー)として、実際の事件の印象が前面に出るようなことはなく、あくまでもインスピレーションとして使っているようだ。

以下、あらすじにもならないあらすじ。

公社の社員である主人公片桐は、冷え切った夫婦関係。夫婦で来るはずだったタイのバンコクへの旅行。現地で知り合った青年武志や、武志から紹介してもらった娼婦ミントとのバンコクでの出来事と彼自身の抱える問題を描いたもの。

あらすじ(ネタバレあり)

日本では、少しでも安い商品を探してスーパーをはしごするような家庭の人間が、タイに駐在すると家政婦も抱え、エセ金持ち面して、偉そうにしている。武志はそんな日本人を軽蔑している。

主人公の片桐は、県や市が親会社であるのんびりした公社の経理。上司は県庁などからの天下り。片桐のようなプロパー社員は出世は望めない。仕事は退屈で、忙しいふりをするのが仕事になる。自分はもっとできる人間と思っているが、会社を変わるとか、何か努力をする訳でもなく、俺はこんなものではないと一生思っているようなタイプ。

天下りの上司は、文字通り、何も仕事をしない。部下の書類も何も見ないで判を押す。という状況から、片桐の横領が始まる。始めは借りたつもりが、後戻りできないような金額に積み上がる。

冷めきった夫婦関係。妻も薄々と夫の犯罪に気がついている。職場の派遣社員との不倫も情熱や愛情はない。心のどこにも燃えるようなものや、熱いものなどもない、それでもプライドは高く、どこか斜に構えた男片桐。

バンコクの旅行で武志より紹介された娼婦ミントとは、簡単な英語での意思疎通もできない。気に入っている割には、娼婦を見下している。ミントの弟のムエタイの試合後、片桐のような買春者を忌み嫌う弟から、殴るケルの暴行を受ける。

買春という事情があっても、悪びれることもなく、ミントや弟、更には、ミントを紹介した武志にまで、不愉快だと切れまくる。帰りの飛行機でも、たまたま、シャンパンが冷めてないだけで、えばり散らす始末。

その姿は、片桐も見た、現地で偉そうに振る舞う恥ずかしい日本人そのもの。横領事件のことは頭から離れないが、堂々としていれば、今までも見つからなかったのだから、これからも見つからないと居直り、日本に向かう。

ポジティブな感想

タイのバンコクの観光地での耽美な様子がイキイキと描かれており、行ってみたくなる。

Twitterで「#元職員」で検索すると、この小説ではなく、数々の不祥事事件の投稿が引っかかる。主人公の片桐は、特別な存在と自分自身のことを思っているが、不特定多数のどこにでもいる一人。読者は、この主人公を徹底的に嫌うだろう。そして、アジアの避暑地などでエバリちらしている日本人にもなりたくないと思うかもしれない。

このような短めの小説で、読者から徹底的に嫌われる主人公を明確に描いている。片桐を嫌う読者は、少し冷静に振り返ると、自分自身の中にも片桐的な要素を見出す事もあるかもしれない。

「そうなるなよ」という筆者からのメッセージと受け取った。

ネガティブな感想からの振り返り

吉田修一氏の作品を読んだのはこれが初めてかもしれない。この作品だけで評価するのは不公平と思うが、この作品に関して言えば、もうひとつ、私の好みのスタイルではないかもしれない。が、正直な感想。

また、短いストーリーながら、片桐の卒業旅行時代(今回の旅行よりだいぶ前の話)のショッキングな事件の描写が2回ほど繰り返される。このシーンと本編の関係性が分からず、むしろ、高慢な片桐の犯罪が発覚し、彼がどん底に落ちるところを見たいのになどと思ってしまう。

その後、このブログ記事を推敲しながら、あれこれ考えさせられることになる。最初は、この作品の淡々としたストーリーや、主人公片桐のクズさに、がっかり感や嫌悪感のようなものだけを感じた。だから、この作品に対し、好みのスタイルではないなどと、片桐のような上から目線になっていた。

やはり、この小説のメッセージは「片桐のようになるな」が根底にあるのではないかと考え直した。

恋愛も仕事も趣味らしいことにも何も熱いものがない。つまらない日々であることは自覚しながら、変えるような行動は起こさない。不正を働いても、ばれないだろと開き直る。あくまでも、現実を直視しようとしない。根拠も実績も何もないのに高いプライド。それを傷つけられることは許さない。他人を思いやるような気持ちすら感じられない。

誰もが、この片桐のようになりかねないのだ。「そうなるなよ」と言う社会性の高い、かつ、倫理的・道徳的なメッセージが含まれていると思って、このストーリーを考え直すと、ネットにあふれている#元職員や、その予備軍への凄みのあるメッセージでもあることが分かる。

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